FullStoryは、サイト訪問者の行動を完全再現できるリプレイ機能を搭載したマーケティング・ツール。スクロールからクリックまですべての動きを記録するので、FullStoryから得たデータを分析すれば、企業は顧客体験を充実させる方法を練ることができる。
サイト開発者やマーケッターなら、サイトを閲覧しているユーザーが何を見ているのか、どんなアクションをしているのかが気になるだろう。
それが分かればサイトの問題点を見つけることができるし、好まれるデザインかもわかる。キャンペーンがユーザーの心を掴んだかどうかも一目瞭然だ。
開発したのは、アトランタ発のスタートアップFullStory。
ほかの顧客情報分析プラットフォームとは一線を画す。
FullStoryを使えば、
1.アクセス数の把握
2.売上分析
3.スクロールやクリックや静止などの行動の記録
などの分析ができる。
さらに、ユーザーの動きをリアルタイムで完全再現(リプレイ)できるので、サイト開発者やマーケッターは「ユーザー目線」を持つことができる。
FullStoryを使えばマーケティングが変わるだろう。その結果、顧客体験を充実させることができる。
原体験を反映したサービス
FullStoryは2014年、Google出身の3人のエンジニアによってアトランタで設立された。起業当初の業績は振るわなかったが、「ユーザーがサイトのページ内でどのような動きをしているのかが分かれば、改善点が分かる」という「気付き」がブレイクスルーポイントになった。
FullStoryの成長には目を見張るものがある。2018年には120名だった従業員数は、約半年で1.5倍の175名にまで増えた。資金調達も順調で、シリーズAファンディングでは1,000万ドル(約10億8000万円)、シリーズBでは1,500万ドル(約16億2800万円)、そして2019年度のシリーズCでは3,200万ドル(約34億7000万円)を集めることに成功。主な投資家はGV(旧Google Ventures)やDell Technologies Capitalである。
FullStoryの製品概要
FullStoryのサービスは多岐にわたるが、一言で表すと「顧客情報分析プラットフォーム」。
クリックやマウスの動き、スクロール、入力などの動きが分かることで、サイト運営者にどのようなメリットがあるのだろうか。
例えば、クリックしたのに何も起きなかった、といったバグを発見できる。また、同じところを何度もクリックしていたり、マウスを激しく動かしたりしていることが分かれば、それはユーザーがイラついているサインだ。
その結果をもとにサイト運営者がすぐに改善すれば、顧客体験を向上させることができる。
FullStoryで得たデータの活用方法は、バグの解消やサイトの修正だけにとどまらない。
最も特徴的な機能は、リプレイだ。これを使えば、ユーザーがサイト上で行った操作をそのまま動画のように再生できる。どこで動作を止め、どこをクリックしたかが一目で分かり、「ユーザーが目の前にいるようなもの」だ。
FullStoryはツールを提供するだけでなく、次の分析サービスも行っている。
1.個人単位でのユーザーの分析
2.キャンペーン別のエンゲージ率を割り出す
3.サイトのページ内の人気箇所の表示
こうした情報だけでもサイト運営者にとっては有益だが、さらにこうしたデータをGoogle Analytics UniversalやJira、Slack、Segmentなどのマーケティング・ツールに読み込ませることもできる。
FullStoryの利用料は、記録・検索・リプレイなどを備えた最も基本的なビジネスプランで月額849ドル(約92,000円)からとなっている。
FullStoryの6つの機能
FullStoryには主に、「Record:記録」「Search:検索」「Replay:リプレイ」「Analize:分析」「Collaborate:コラボレーション」「Integrate:統合」の6つの機能がある。
Record:記録
ユーザー行動を記録(FullStoryホームページ内動画より引用)
FullStoryは、クリックの頻度、マウスの動き、入力動作などユーザーのアクションをすべて記録する。同時にJavaScriptのコンソールログと例外も記録されるので、エラーの発見が容易になる。
さらに、ユーザーのメールアドレスや現在地、購入履歴などの情報も記録されるため、自社の顧客をより深く知ることができる。
ここまで個人情報が詳しく分かってしまうと言うと、プライバシー問題が気になる。しかし、設定を変更すれば、FullStoryによる顧客情報へのアクセスを拒否できる。つまり、重要な情報は自社のみで管理できるから、外部に漏れる心配もない。
Search:検索
ファネル分析(FullStoryホームページより引用)
FullStoryが記録したユーザー情報は、検索機能を使って自由に引き出すことができる。例えば検索項目を「ページAをスクロール→URL Bをクリック→商品Cを閲覧したユーザー」と設定すれば、連続アクション別にユーザーを分類することができる。
FullStoryのユニークな点は、ユーザーがサイト内でイラついたときに出すサインを検出できるところだ。「同じ場所を何度もクリックする」「マウスを激しく動かす」などの動きを読み取る。
Replay:リプレイ
リアルタイム分析(FullStoryホームページより引用)
FullStoryの代表的な機能ともいえるリプレイは、AI(人工知能)ではフォローできない領域に「人間の洞察力」を加える仕組みといえる。
リプレイ機能は、ユーザーがサイトを利用しているときの状況を、画面の解像度や縦横比まで完全に再現する。しかも、サイトを利用中のオンタイムでリプレイするので、カスタマーサポートで活用できる。カスタマーサポートのオペレーターは、電話やチャットでユーザーにブラウザやOSなどの情報を尋ねる必要がなくなる。
Analize:分析
ファネル分析 (FullStoryホームページより引用)
FullStoryでは、集めたデータの分析も行っている。
アクセス数や購入数の推移、セグメントごとのアクションの変化を捉えるのはもちろんのこと、次のようなユニークな分析も可能だ。
Event Funnel機能
Event Funnel機能を使えば、特定のアクションを実行したユーザーの割合が一目でわかるので、コンバージョンに至るかどうかの分岐点を探ることができる。
例えば「商品をカートに入れた人のうち、26%しか購入に至っていない」といったことが分かるので、サイト運営者は「商品に興味を示すものの、購入に迷いが生じているユーザーが多い」と認識できる。
ここまで分かれば、次のマーケティングの方向性を打ち出すことができる。
Heat Map機能
ヒートマップ分析(FullStoryホームページより引用)
Heat Mapは、サイトの画面をクリック数で色分けできる機能だ。上の画像では、ピンク色が濃いほどクリック数が多く、青はクリック数が少ない、といったようにユーザーの「気持ち」を可視化できる。
また、最もエラークリックが多い箇所を表示することもできる。
他にも、ページごとに表示速度を把握できるので、サイトのパフォーマンス改善につなげることが可能だ。
各アクションに対し詳細なJavaScriptコンソールログが記録されるため、効果的なデバッグが容易になる。FullStoryで記録されたデータはすべて、CSVやJSON形式で出力できる。
Collaborate:コラボレーション
コラボレーションツール(FullStoryホームページから引用)
FullStoryを導入すれば、社員間で業務上のコミュニケーションが進む。
これをFullStoryではコラボレーションと呼ぶ。
リプレイのリンクをメールやSlackなどでシェアすることができるし、ダッシュボード上にメモを残し、チーム内でアイデアを共有することもできる。
また、アクセス数が異常に多くなったときなど、通常とは違う動きを検出した瞬間に、メールやSlackメッセージで全員に通知される。
さらにFullStoryは、日ごと、週ごとのビジネス・イベント情報を自動で作成するので、メンバー間でのコミュニケーションミスが生じにくくなる。
Integrate:統合
FullStoryは、他のマーケティング・ツールや統計ツールと統合することができる。APIを使って他のサービスにつなげることも可能だ。
対応できるツールは以下のとおり。
ワンクリック接続対応プラットフォーム:
BugSnag、 Desk、Drift、Google Analytics Universal (GAU)、Google Tag Manager (GTM)、Help Scout、Hip Chat、Intercom、Jira、Mixpanel、Olark、Salesforce、Segment、Slack、Tealium、Trello、UserVoice、Zendeskなど
手動接続プラットフォーム:
BigCommerce、Landing Lion、Magento、Optimizely、Shopify、Squarespace、Unbounce、Bugsnag、Wordpress + WooCommerce、Amazon Redshift、Google BigQuery、Signal Tag Managerなど
まとめ
FullStoryはマーケッターやサイト開発者、カスタマーサポートセンターまで、企業内のさまざまな部署で活用できるオールラウンド・ツールだ。デジタルデバイスからユーザー情報を収集すること現在では当たり前のことになっているが、FullStoryはデータ活用の価値をさらに高めるだろう。
ただネガティブな情報もある。プリンストン大学の研究チームが2017年に、FullStoryを含む7つの情報解析ツールがユーザーの個人情報を無断で集積していると指摘した。この指摘によってFullStoryは大手クライアントを失ったが、それ以降、セキュリティを強化。ユーザーのプライバシーを侵害したり、情報が外部に漏洩したりといった状況は改善されたようだ。
FullStoryは、顧客と企業の間の壁を取り払うのに最適なツールのひとつである。FullStoryのこれからの発展に期待したい。