世界のトップビジネスマンのスケジュールをAIで管理するx.aiとは?

EメールにCCするだけで、ミーティングの予定をあなたに代わって管理してくれるAIアシスタント。世界トップクラスのビジネスマンが愛用するx.aiのAIアシスタント「エイミーとアンドリュー」について詳しく見ていこう。

「ミーティングの予定が無数のEメールに埋もれてしまい、日時が分からなくなってしまった」「世界中に散らばっている数名のメンバーとミーティングの日程を調整するのが難しい」ビジネスマンなら、誰でも一度はこんな経験があるだろう。

このような問題をAIで解決する未来のテクノロジーを誇るのが、NY発のスタートアップ企業x.aiだ。x.aiは、専用のアプリやプログラムを利用することなく、Eメールだけで日程調整をすることができるミーティングスケジュール管理専用のAIを開発している。エイミーとアンドリューという愛称で知られるAIが、人間の言語で書かれたEメールの内容を理解し、日程調整のEメールを自動で送信する。

この記事ではx.ai社の概要を紹介するとともに、一見単純そうに感じられるそのAI技術の開発過程を詳しく見ていこう。

x.aiってどんな会社?

x.ai社概要

x.aiは2013年にデンマーク人プログラマー、デニス・モーテンセンによって設立された。2016年に商品の一般提供を開始し、2019年現在までに3,000万ドル近くをR&Dに投資。シリーズCファンディングで獲得した1,000万ドルの資金も、開発に投資される予定だ。2019年現在、NYに53名の従業員と、フィリピンに100名を超えるAIトレーナーを抱えている。

2019年現在、x.aiのサービスはマイクロソフト、Uber、Slackといった大企業に利用されている。すでにFortuneが認定するトップ100企業のうち98社に利用され、1,100万件を超えるミーティングの予定を立てるのに貢献した。もはや、ビジネスの世界ではx.aiはなくてはならない存在となっていると言っても過言ではない。

(x.ai HPより抜粋)

x.aiが提供するもの

x.aiの商品ラインナップはいたってシンプルだ。エイミーとアンドリューという名のAIが、Eメールの人間の言葉を理解し、その中からミーティングの予定に関するものを検出して、予定の設定と管理をアシストする。多くの競合企業が人間のアシスタントを使う必要があるのに対し、x.aiでは100%AI任せであるため、ランニングコストが非常に低い。

このAIは、数多くのコンタクトやスケジューリングツールを統合し、シームレスなパーソナルアシスタントとして活躍している。

x.aiの活用事例

ミーティングの予定を立てたい際、どのようなやり取りが実際に行われるのか見てみよう。

例えば、金曜日にボブ・スミス氏との会議を行いたい場合。あなたはエイミー(x.aiのAIアシスタント)にその旨をEメールで伝える。すると、エイミーはスミス氏にEメールを送り、空いている時間を尋ねる。スミス氏が「14:00以降なら大丈夫」というようにエイミーに返信。するとエイミーはあなたのカレンダーをチェックし、15:00に開いているスポットがあると確認すると、スミス氏に「では15:00で」というような内容を返信する。

もし、予定を立てた後にあなた、もしくはスミス氏が予定をキャンセルした場合、エイミーはそのことを相手に伝え、再スケジュールを試みる。

つまり、エイミーは、あなたと相手の仲立ちとして、Eメールの内容の理解からカレンダーの確認、そして、返信までを全て担当するのだ。

複数のチャネルから予定をスケジュール

x.aiのアシスタントは、特別なソフトウェアをインストールしたり、個別のページを開いたりすることなく利用できる。例えばEメールを送る際は、CC欄にエイミーを追加するだけで、エイミーが相手に時間と連絡先を尋ねるEメールを送ってくれる。つまり、スケジューリングに関する詳細はエイミーに任せ、自分は「会って話をしよう」という内容を送るだけでよい。

また、エイミーはカレンダーにもリンクしており、自動でイベントを作成し、リマインダーを設定。予定に変更があった場合もすべて自動で管理してくれるので、漏れがない。また、x.ai独自のカレンダーアプリを使えば、相手に自分の空き時間が表示されたリンクを送ることが可能。そのリンクから、相手が自由にあなたとのミーティングをスケジュールできるので、フリーランサーや医者、カウンセラーなどが活用するのに便利だ。

x.aiは、ビジネスチャットSlackとも連携している。Slackのチャット内でエイミー、もしくはアンドリューの名前をメンションするだけで、AIがアクティベートされる。AIはチャット内でミーティング参加者の予定をすべて自動で確認し、全員が参加可能な時間を検出。自動で最適な時間を設定してくれるため、何通ものメッセージが飛び交うことによる混乱を防止し、ミスを防ぐ。

(x.ai HPより抜粋)

x.aiのフォーカスは「予定のスケジューリング」に限られている。これは非常に単純に聞こえるかもしれないが、x.aiのエンジニア曰く、解決すべき問題が3つあったという。1つ目は、エイミーに人間の言語で会話をさせること、2つ目は、既存のコンタクト情報やカレンダーソフトウェアと交流させること、そして3つ目は、人間の言語を読んで理解させることだ。

最初の2つは、約2年間の歳月がかかったものの、既存の技術で解決することができた。2019年現在でも課題として残るのが3つ目の問題である。なぜなら、人間の会話には曖昧な内容が多いからだ。例えば「金曜日にジョンと会いたい」という文章。連絡先にジョンという人物が2名以上いる場合、人間なら文脈でどのジョンか特定できるが、AIにはそれが難しい。また、「いつか一緒にコーヒーでも飲みながらゆっくり話をしましょう」といった内容の文が、実際にミーティングのスケジュールを要するものなのか、それとも単なる言い回しなのかを理解するのは人間でも困難なことだ。

このような「曖昧なケース」を解決するために、x.aiのフィリピン支部では100名を超えるエンジニアが24時間体制で、何百万件というEメールによるスケジュールリクエストに、マシーンラーニングアルゴリズムを適用させてエイミーを訓練している。ここでの業務内容は厳重な企業機密となっており、x.aiが未だかつて存在しない高度な技術の開発を試みていることを物語っている。

しかし、その結果もあり2019年現在、x.aiは、エイミーはEメールの内容の99%を理解できるようになったと述べている。

Amazon SageMakerとの提携

(x.ai HPより抜粋)

当初、x.aiは、独自のAWSクラウドプラットフォームとMesosに類似したフレームワークを利用して開発を行ってきた。しかし、何百万件というEメールを処理して、迅速なフィードバックを得たり実験を行ったりするために必要なキャパシティが不足。また、休みのないメンテナンス、ログの取得と保存、そしてモニタリングに時間と労力がかかりすぎることも問題となっていた。

そこで、2019年3月、x.aiはAIのレベルをさらに高めるためにAmazonと提携し、同社のSageMakerと呼ばれるマシーンラーニングパイプラインを利用すると発表した。

Amazon SageMakerは、コスト面がカバーされ、ニューラルネットワークの構造や正則化のためのパラメータが既に整っている非常に強力なAIシステムである。

当初、Amazon SageMakerはx.aiのニーズをかなえるための柔軟性が欠けると思われたが、x.aiはSageMakerのフレームワーク内でカスタムモデルを製作。さらにディープラーニングAMIや、TensorFlow、PyTorch、Sockeyeといったフレームワーク、そしてpandas、numpyといったデータサイエンス関係の既存のシステムを組み合わせることで、処理速度を上げコンストの削減に成功した。

まとめ

ある研究者は、2025年までに世界で10億人以上の人が、日常的にAIアシスタントを使うようになるだろうと予測している。そのトレンドはすでに始まっており、特にアメリカのビジネス界では、x.aiのAIアシスタントなしに予定を立てることはないと言ってもいいほどだ。

x.aiのスケジュールアシスタント、エイミーとアンドリューは、特別なアプリやソフトを介することなく、Eメールから直接ミーティングの予定を立てることが可能。人間の言語を理解し、既存のコンタクトや予定管理アプリを確認、そして、人間の言語で返信するといった複数のタスクを行うAIを開発することは容易ではなく、x.aiの技術は世界をリードするものだ。

Eメール、アプリ、専用カレンダー、チャットアプリSlackから、名前を呼ぶだけで、まるで実際の秘書のように会話に参加し、最も都合の良い予定を立ててくれるエイミー。キャンセルや変更の管理も自動で行ってくれるため、ミスを防ぐことができる。ミーティング設定に伴う煩わしい調整に悩まされることなく、もっと重要なタスクに集中できれば、作業効率が上がることは間違いない。x.aiが目指すのは、より効率的なビジネスシーンなのだ。