NY発のベンチャー企業「BounceX」は、ウェブサイトの訪問者の人物像を特定する技術を開発した。従来とは違う、新しいユーザー追跡システムの概要を解説。マーケティングにとって最重要な「ターゲットの理解」は、これからどう進化するのだろうか。
「マーケティングは、ビジネスを成長させるためのもの」この当たり前のような言葉にハッとさせられる人も多いのではないだろうか。常に成長し続けるためには、新たな戦略や技術を取り入れていくことが欠かせない。しかし、多くの企業が未だに古いマーケティングの仕組みに縛られ、大量の時間とコストを費やしながら望むべき結果を出せないでいる。
そんなマーケティング業界に新しい風を吹き込むのが、NY発のベンチャー企業「BounceX(バウンスエクスチェンジ)」だ。2012年に設立されたBounceXは、2016年にInc.comによって「アメリカで最も成長が著しいソフトウェア企業」に選ばれ、以降約2年で4倍以上の収益拡大を実現させた。
BounceXが売りにしているのは、ウェブサイトの訪問者がどんな人かを特定する、インターネット上のユーザー追跡技術だ。この技術を使えば、企業は自社ウェブサイトの訪問者を具体的に理解することができ、よりターゲットを絞った広告やキャンペーンを展開することができる。
その仕組みは一体どのようなものなのか?具体的な例を挙げながら、BounceXが誇る最新ターゲティング技術を見ていこう。
BounceXとはどんな企業か?
BounceXは2012年に設立されたNYのベンチャースタートアップ企業である。現在はニューヨークとロンドンにメインオフィスを構え、ユニクロ、Forever21、JetBlueなどの大企業を含む350社以上をクライアントとして抱えている。2018年には3700万ドルの資金を調達し、従業員を600人にまで拡大する予定だ。
クラウド型行動マーケティング企業であるBounceXは、独自の追跡システムにより、ウェブサイトを訪れる人の具体像を特定する。その情報を使って、企業は広告やキャンペーンの言葉、タイミング、媒体などをパーソナライズすることができる。BounceXを活用した企業は、平均で6~10%のデジタル収益アップを実現させている。
BounceXの商品の魅力とは?
BounceXが顧客に提供するのは、会社のウェブサイトを訪れた人の「人物像」だ。マーケティングでは、ターゲット層に合わせて効果的な戦略も変わってくる。しかし、サイト訪問者の98%は匿名であると言われている。これでは、柔軟にアプローチをすることが難しくなる。
BounceXはメールアドレスなどを利用して、ユーザーを複数のデバイスや多様な経路から追跡。行動パターンや興味関心などを分析し、各個人のプロファイルを作成する。このプロファイルを参考にして、企業はユーザー向けにカスタマイズされた広告やキャンペーン、メール、メッセージ、プッシュ通知などを表示させることができるのだ。
BounceXの活用事例:ユニクロの場合
日本の衣料ブランド、ユニクロはBounceXの最大級のカスタマーだ。BounceXを導入する前、ユニクロはウェブサイト離脱者の約15%程度しかその人物像を把握していなかった。またメール配信からの収益も思うように上がらずにいた。
しかしBounceXを導入することで、ユニクロは今まで正体不明だったサイト訪問者の45%の実態を把握することに成功。この結果をもとに、今まで全顧客に一斉配信していたメールを、ユーザーの特徴ごとに細分化してカスタマイズ。Eメールからのトラフィックは13倍に、またメールからの収益はなんと9.4倍にも伸びたのである。
導入からほんの1か月で、BounceXはユニクロのデジタル収益の4.46%を占めるようになり、今では7.8%がBounceXのおかげによるものだ。このユニクロの事例は、BounceXのCEOライアン・アーバンの言葉「未来型のマーケティングの鍵は、消費者を特定して個人にとって心地の良いデジタル経験を作り出すことだ [1]」を決定的に裏付けている。
「人」を中心に添えたターゲティング
これまで、ウェブ上で個人を特定する方法は「アカウント型」と「クッキー型」の2つが主流であった。しかしそれぞれに限界がある。アカウント型はユーザーが実際にアカウント登録・ログインしない限り使えない。またクッキー型は異なるデバイスからアクセスがあった場合、同一人物であることを特定することが困難だ。
対してBounceXは「人」にフォーカスしてユーザーの人物像を特定する。具体的にはウェブビーコンやユーザーのメールアドレスなど、20以上の異なる識別子を追跡して個人のプロファイルを作成するのだ。つまり、BounceXの技術では、個人が複数のデバイスを利用していても、またページにログインしていなくても、行動パターンや興味関心に関するデータを集めることができる。
現在までにBounceXは約2億人分のプロファイルを作成している。このリストを使うことで、今まで匿名だったサイト訪問者の約40%を明らかにすることができる。もちろん、リストはこれからも拡大していく見通しだ。
複数デバイスからでも同一人物を特定
上記のように、BounceXの特徴の一つは複数デバイスを利用する個人を特定することだ。どうしてこれが重要なのか、オンライン航空券予約サイトの例を挙げて見てみよう。
オンラインで航空券を予約する人は、複数サイトで価格を比較したり、数日後に考え直したり、自宅・職場などの様々な場所から何度もアクセスして、実際の決定までに時間をかけることが多い。しかし、異なるデバイスから、また時間を空けてサイトを再訪問する際、サイトはそのユーザーが前に来たことのある人と同一人物であることを知ることができない。つまり、リターゲティング戦略を取るべき相手に対して、新規顧客向けのPRをしてしまうのだ。
しかしBounceXの技術を使えば、3日前にスマホで航空券を検索した人が、PCを使って再びやってきた時、その個人のためにカスタマイズされた魅力的なメッセージを表示させることができる。カートの内容の再現や、広告のカスタマイズも可能。ユーザーがログインする必要はない。
このように、デバイスを超えてユーザーを特定できれば、よりターゲットを絞ったピンポイントのマーケティングが可能になる。これが収益アップにつながることは確実だ。また新規顧客、リターゲティング対象、リピーターをそれぞれ混同することなく把握することで、マーケティング戦略の効率化とコスト削減も見込める。実際、ある旅行関係企業はBounceXを使うことで、ROAを25倍にまで拡大することに成功している。
デジタル・ボディランゲージ
BounceXが特に重要視しているのが、IPアドレスやクッキーのようなテキストファイルを集めるのではなく、実際の人間の性格や興味、行動パターン、反応などの「リアルな」情報を蓄積することだ。BounceX社は「デジタル・ボディランゲージ」を分析することで、これを可能にしている。
デジタル・ボディランゲージとは、インターネット上で人がとるズーム、スクロール、静止、クリック、ハイライト、コピペなどの行動のことだ。デジタル・ボディランゲージの裏には、必ず意図や関心が隠れている。つまり、訪問者のデジタル・ボディランゲージを理解できれば、離脱率、コンバージョン率、リピート率などをより正確に把握して研究することが可能になる。そしてより効果的なマーケティング戦略を採用することができるのだ。
まとめ
「サイト訪問者の人物像が具体的に分かるといいのに…」そんなマーケティング担当者の声にこたえるのがBounceXだ。NY発の急成長ベンチャーBounceXは、従来とは異なる独自の追跡・分析技術を使って、インターネットユーザーのプロファイルを作成する。
従来のマーケティングスタイルでは、ユーザーが特定のデバイスを使っているだけ、また自社ウェブサイトを訪問している時だけ、という小さな枠組み内でしか分析が行われていなかった。しかしBounceXは「個人の人生の一部だけを切り取るのではなく、全体的に把握することを目標にしている [2]」とCEOのライアン・アーバンは語る。
その通り、BounceXは複数デバイスを利用する同一人物を特定し、その人物のデジタル・ボディランゲージを研究することで、より包括的で鮮明な「人物像」を描くことに成功している。この情報を使って、企業はより効果的で効率的なマーケティング戦略を取ること可能になる。
デジタル・マーケティングの次世代を切り拓くBounceX。これからの発展から目が離せない。
<引用>
[1] BounceX: The Behavioral Marketing Startup Shifting How Brands Target Consumers (Forbes)の「The only way that marketers will succeed is if they create non-disruptive digital experiences. And the key? Identifying your consumers, and getting them to come back again and again.」の部分をまとめて意訳
[2] 同上、「We don’t want to segment to specific pieces of someone’s life. We want to adapt to their lives holistically.」を意訳