Maraxの「オファー・マーケティング」を徹底解説

インド発のスタートアップ、Maraxが開発したAIによる「オファー・マーケティング」を紹介する。

ハーバード・ビジネス・レビューの最近の調査によると、新規顧客を獲得するコストは、既存顧客を維持するコストの525にもなるとされている。
競争が激しいデジタルマーケティングの世界でも、消耗の大きい新規顧客の獲得よりも、低コストで売上に貢献しやすい「既存顧客の維持」を重視する動きがある。
もし、企業が既存顧客を大切にするなら、顧客一人ひとりの属性にフォーカスを当てたマーケティングを行うことで、既存顧客にインセンティブを提供し続けなければならない。

一人ひとりの顧客の属性に注目したマーケティングを、パーソナライズド・マーケティングという。

(ホームページより抜粋)

チャーン(顧客による解約)が5%増えると利益は25~95%減る

アメリカのビジネス誌「フォーチューン」が過去15年に取り上げた500社のうち、52%が既存顧客の維持に失敗し、業績を落としている。既存顧客の維持を難しくしているのはスマホだ。顧客たちはスマホを数回クリックするだけで、ライバル会社の類似商品を見つけることができるのだ。

既存顧客の喪失やチャーン(顧客による解約)が2%程度なら経営を揺るがすことはない、と考える経営者もいるかもしれないが、それは危険な考えだ。
というのも、年間売上高5,000万ドル(約54億3124万円)の企業が2%の既存顧客を失えば1,200万ドル(約13億349万円)の減収となり、企業価値は1億ドル(約108億6248万円)減る、という試算がある。

この問題の解決に動いたのが、カリフォルニア州とバンガロールに本社を置く、インド発のAI開発企業、Maraxだ。同社はAIを駆使したパーソナライズドマーケティングサービスを企業に提供している。

オファー・ビジネスが盛んなインドで開発されたMARS

マーケティング用語として用いられる場合、オファーは「企業から顧客に渡される見返り」を意味する。例えば、10%OFFクーポン券などがそれにあたり、オファーを嫌うカスタマーはいない。

オファー・ビジネスはインドでも盛んで、タクシー運賃、野菜や服の購入にまでオファーが提供されている。Maraxは、インドのIT大手Infosysなどから支援を受けてネット通販などのEコマースやモバイル・ビジネスを展開する企業向けに、AIでオファーを最適化するツール「MARS」を開発した。

MARSのAIは、まず、ターゲットの顧客一人ひとりのニーズを分析。最適なコミュニケーション・チャネルを選択し、顧客にマッチしたオファーを有効なチャネルを使って届けられる。
つまり、顧客の購買意図に合わせてオファーを最適化のだ。

Maraxを率いるのは、創業者でAI技術者でもあるRaman Shrivastava氏。同社はこれまで、Zeroth AI、Artesian Capital Management、Animoca Brandsなどから資金を調達している。

MARSの機能

MARSを利用すれば、チャーン(顧客による解約)問題を解決し、既存顧客の減少を食い止めることができるだろう

MARSは、解約の可能性のある顧客やその理由を特定し、解約を防止する方法を提案してくれるからだ。既存顧客の減少を食い止めるには、ニーズに合ったオファーを的確に届ける必要がある。

(ホームページより抜粋)

顧客の性別や好み、購買パターンや買物の予算といった情報を集め、「ファッションに敏感なビジネス・ウーマン」「男性の大学生」「企業のCEOたち」などの各セグメントに分類する。そして、セグメントごとにニーズを抽出して適切なオファーを考え、顧客に提供する。
MARSは、顧客が「商品情報を集めているだけ」なのか、「購入の検討をしているのか」といったことまで分かる。

(ホームページより抜粋)

企業は、トランザクション・マーケティング*の効果を最大化できるので、マーケティング予算を有効活用して、創造的なキャンペーンを実施できる。
*現在の取引(トランザクション)を重視するマーケティング
また、マーケティングの支出を最小に抑えながら、オファーの効果を最大化もできる。

企業がすべきことは
1.1つのキャンペーンに対して50種類のオファーを用意する
2.顧客セグメントを選択する
3.予算を確定し、オファーの量を決める
の3つだけ。
最適なオファーができれば、クリック数もコンバージョン率も上がり、顧客満足度も高まるだろう
MaraxAIソリューションを使えば、解約しようとしている顧客に予算を集中させることができるので、予算を効果的に使うことができる

人間(マーケター)が、顧客一人ひとりにパーソナライズド・マーケティングを仕掛けることは、物理的に不可能だ。しかしMARSのAIならパーソナライズド・マーケティングを実行できる。そして、クリエイティブなコンテンツづくりに集中できるようになる。

AIはマーケティングの中心にある

Maraxのマーケティング戦略は、様々な事象からゴールに紐づくものだけをAIで抽出し、有効なものでパーソナライズド・マーケティングを構築していく。

MaraxAIは、自己学習を自動化している。分析領域の特定、判断、ソリューションの提供と同時に、結果から得られたフィードバックによって学習をさらに深めていくことができるので、精度は日に日に高まる。

Maraxには「企業に次世代のソリューションを提供する」という強い想いを持ったAI研究者とデータの専門家が数多く在籍するからこそ、MARSのようなサービスを開発することができたのだ。

MARSの「既存顧客維持プラットフォーム」

MARSは
1.顧客分析
2.セグメンテーション
3.キャンペーンの支援
の3つの機能を持つ。
いわば、既存顧客維持プラットフォームである。

1.顧客分析

解約率の予想や顧客生涯価値(Life Time Value)*の現状のリスク量、顧客生涯価値の将来のリスク量や解約リスクの高い顧客の予測、将来の取引状況の予測を把握できる。
*顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益

(ホームページより抜粋)

2.セグメンテーション

個人情報や行動、現在、将来的な顧客価値の予測、対象エリアやチャーン・リスクといったデータから、顧客をセグメントする。また、顧客に関するデータはすべて可視化できる

3.キャンペーンの支援

実施したキャンペーンのパフォーマンスを確認できる。また、顧客一人ひとりに打ち出したパーソナライズド・キャンペーンの効果を検証することも可能だ。

(ホームページより抜粋)

まとめ~既存顧客を維持する準備に取りかかろう

最先端技術を使えば、既存顧客の維持や特定の客層を狙ったパーソナライズド・マーケティングを実行することは容易だ。そのカギを握るのはAIであり、Maraxはそれを提供している。

あとは企業がいつそれに着手するか。AIはマーケティングを進化させ、競争力を高めるだろう。マーケターは、すぐに準備に取りかかるべきだ。

<参考> ※為替レート: Google Finance 2019年7月末時点