「問い合わせ」のその先へ:AskSidがAIでオンラインショッピングをよりよいものにする方法とは?

インド・バンガロールにあるAIスタートアップAskSid(アスクシッド)は、問い合わせ対応を通じてオンラインショッピングの顧客が迷わず商品を購入できるAIサポートサービスを提供している会社だ。

AIがこれからのビジネスに与える影響の大きさは至る所で話題にのぼってきた。現在では、医療関係、製造業、eコマース業界など様々な分野に広がっており、マーケティングやリサーチ、カスタマーエクスペリエンスの用途で使われていることを目にしているのではないだろうか。AIが持つそのポテンシャルの高さを示すものとしては、AIチャットボットが有名だ。

AIの流行に乗って、2015-2016年の間にAIスタートアップが急増した。特にAIのエコシステムを支える新しい技術の出現が起因となっている。しかし、一辺倒のやり方が効かなくなっており、このAIバブルももうすぐ弾けると予想されている。ホテルの予約サイトやショッピングサイトに埋め込むために同じAIプラットフォームを利用したスタートアップは、実社会のアプリケーションではその回答が的外れであることを悟ったはすである。

今日でも好調なスタートアップは専門領域で得意分野を見つけている。それがマーケティング技術やプロダクト開発、カスタマーサービスであろうが、特定の分野や機能を深く理解するために追求しているAIスタートアップのみが生き延びていると言えるだろう。

そのようなスタートアップのうちの一つが、今回ご紹介するAskSidである。彼らはオンラインショッピングの顧客体験を劇的に改善している。

創業者の体験から生まれたサービス

AskSidは、全ての女性が人生のどこかで必ず直面する問題を解決するために生まれた。その問題とは何であろうか。それは、オンライン上にある何千もの商品の中から、自分が求める商品を間違いなく選ばなければいけないという問題である。

話は創業者Sanjoy Royの妻であるDollyが、オランダに住んでいる時に暖かいタイツを探していたことから始まった。連日の寒さにより、タイツ選びは一層急を要していた。

Dollyは様々なeコマースサイトで販売されている何百ものタイツを見て、「生地は通気性があるのか?」「履き心地がよく、そして何より暖かいのか?」「どのサイズが私に合っているのか?」など、次々と疑問が浮かび上がっていた。ただ、オンラインショップ上ではこの疑問をぶつける相手がいなかったため、彼女は途方に暮れてしまった。

ついに彼女はオンラインで購入することを諦め、結局近所にある女性用下着ブランドWoldfordというお店に行ったのである。そして、そこにいた店員が彼女の疑問や質問に全て答えてくれたため、彼女は納得してお目当てのタイツを購入することができた。

この一連の出来事を通じて、Sanjoy Roy氏に「実店舗での買い物がこんなにスムーズにいくのにも関わらず、なぜオンライン上では同じことができないのだろうか?」と疑問に思ったのである。

AskSidは何をしている会社か?

この出来事からしばらく経ったのち、AskSidが生まれた。インド・バンガロールにあるこのAIスタートアップは、問い合わせ対応を通じてオンラインショッピングの顧客が迷わず商品を購入できるサポートサービスを提供している。“会話型”AIプラットフォームと呼ばれ、顧客からの要求を読み取り、必要な時はいつでも人間の担当者 に繋がるような仕組みになっているのである。加えて、オンラインストアに対し、正しい顧客ターゲットができるよう、マーケティングインサイトの提供もしている会社だ。

彼らのプラットフォームの素晴らしい所は、様々なチャネルかつ多言語で利用できることである。各ブランドのオンラインウェブサイト/ストア、アプリ、スカイプやFacebookページにも埋め込むことが可能で、WhatsApp対応も現在進んでいるとのことである。

AskSidのサービスがあるおかげで、顧客の買い物をより快適にして売り上げに繋がるだけでなく、顧客にとってよりよい商品カタログを作る一助になっている。ショッピングモールで目にするディスプレイを思い浮かべて欲しい。魅力的なディスプレイには顧客は目を奪われ、そしてそこに並べられた商品を次々と手にとって買って行くのを目にしたことがあるはずだ。

彼らは従来のe-コマースサイトで顧客がどのような動きをしているのか解読して、ある興味深いことを見つけた。それは顧客がオンライン上で似たような商品を見つけた場合の行動パターンである。

40%:購入を延期する
25%:購入した商品を返品
10%:購入をやめる
10%:実店舗へ買いに行く
10%:カスタマーサポートに電話をする

という結果になった。カスタマーサポートに連絡するのはたった10%という現状の打開策として、会話を通してコンバージョンをあげることができるAskSidチャットボットが役立にたちそうだ。

Wolfordのサクセスストーリー

妻がWolfordで買い物したことがきっかけで生まれたAskSidだが、彼らにとっての最初の顧客がWolfordであるというのは大変ロマンチックな話である。Roy氏はWolfordのマネジメント責任者に連絡を取り、彼のアイディアを伝えた。Wolfordではオンラインでの顧客に対して、人間のスタッフがその都度対応していたが、二つの問題があった。一つは人間スタッフの回答を標準化することの難しさ、二つ目は他国からの顧客に対応できないということだ。

WolfordはAIチャットボットが持つ可能性を感じ、AskSidのサービスをすぐに利用開始した。そして、その成果はすぐに現れたのだろう。上記の二つの問題を解決できただけではなく、ビジネスをより成長させるためのヒントを得ることもできたのである。今日では、AskSidのチャットボットはヨーロッパ14カ国にいるWolford の顧客を魅了し、素晴らしい買い物体験を提供しています。

その後、AskSidは更にヨーロッパにある二つのファッションブランドを顧客として獲得した。

AskSidのツールとテクノロジー

AskSidはAIプラットフォームに自然言語処理・機械学習などのテクノロジーを利用することで、分野が異なるオンラインショップのそれぞれの要求に、包括的に答えられるようになっている。

AskSid のチャットボットは現在テキストベースのサービスであるが、音声サービスもまもなく登場予定である。加えて、下記のような様々な商品が顧客満足度を上げるために改良を重ねている。

ReplaySid:顧客との全ての会話を追跡することで、便利なカタログを作り、また顧客が欲しいものをすぐに見つけられるサービス。

SwitchSid:チャットボット上の会話を人間の担当者に共有する時に便利なサービス。顧客からの質問に対し、経営的判断を下す材料として利用される。

TrainSid:独自の認知機能により、アルゴリズムテストが可能。ブランドから得た生データで構成されたかカノニカルデータモデル(標準データモデル)を採用したプラットフォームにおいて、モデルトレーニング及びモデルテストができる。AIを使い、チャットボットを通じたカスタマーエンゲージメントを可能にする。

MeasureSid:分析する際に便利なサービス。各ブランドがデータをよく理解するために役立つ。それが生データかチャットからのデータかに関わらず、各ブランドは情報やトレンドを抽出し、カタログを更新することや、ニュース製品やマーケティングキャンペーンを開始することが可能。

MonitorSidはオンラインプラットフォーム上で行われた全ての取引、会話、購入履歴を管理する際に役立つ。ダッシュボード上にリアルタイムでKPI(重要業績評価指標)が分かる。

AskSidがオンラインストアにとって欠かせないものということがお判りいただけただろう。在庫管理、カタログ作り、値付け、カスタマーサポート、マーケティング、そして、販売の全てに関わるサービスを提供している。

最強コンビ

AskSidは、Mindtreeの卒業生Sanjoy RoyとDinesh Sharmaが発案して開発された。 二人合わせて41年間の実務経験を経て、2人はAskSidを起業することを決意した。AIのスタートアップの背後にいる“人間知能”として、Royがビジネスサイドに、Sharmaは技術サイドを担当している。ビジネス開発と顧客開発の経験があるRoyは次の大きな顧客を見つけ、ニーズを理解する事に専念している。一方建築業界と製品開発に何十年も身を置いていたSharmaは、顧客のニーズを満たすオーダーメイドの解決方法を生み出だしている。

投資家にも注目されるAskSid

起業当初から、大企業などもAskSidに可能性を感じ、エンジェル投資家として名乗り出ていた。NKK として有名なMindtree 会長の Krishnakumar Natarajan氏、そして 前Google SEアジアマネージングディレクターのRajan Anandan氏も名乗りでた人物である。特にRajan Anandan氏は成功するスタートアップを見つける目利きがあり、現在ベンチャーキャピタルSequoia Capital社のマネージングディレクターを務めている。

まとめ

新たしいプロダクトが完成次第、AskSidは新たな顧客を獲得し、会話できるAIプラットフォームを次の常識にすることに注力している。より専門性を高め、e-コマースビジネスのパートナーとして確固たる地位を築くことを目指している。
そのまた先には、B2BとB2Cにおいてもサービスを拡大していくことを狙っている。今後もAskSid活躍に注したい。

<参考>