AIを使った小売データ分析で存在感を示す~インドのスタートアップ「Manthan」~

Amazonが開発したスマートスピーカー「アレクサ」は、天気を尋ねると「晴れのち雨でしょう」と即座に答えてくれる。
もし、企業の経営者が「この店舗は今月、なぜ売上が落ち込んだのか?」「今週の業績はどうだった?」と尋ねてすぐに答えてくれるAIがあったら、ビジネスも経営も一変するだろう。ただ、ビジネス対応のAIには、ビジネスに精通していることやさまざまな分析ができることが必要になるため、難易度は高い。

インドのスタートアップManthan(マンタン)が開発したMaya(マヤ)は、ビジネスレベルの分析ができるAIを搭載した会話型インターフェース。経営者やビジネスパーソンの数百万件の質問に答えることができる。

インドのスタートアップ、Manthan

小売業は昨今、変革のときを迎えている。小売業の経営者は、商品の陳列棚から売上に至るまで管理するのはもちろん、消費者目線に立った意志決定をしなければならない。
これらの課題を、AIが解決する時代がやってきたのだ。
クラウド型分析やAI開発を得意とするManthanも、小売業にこうしたソリューションを提供している会社のひとつである。彼らが目指すのは、経営者や決済権者の意思決定をサポートすることと、ビジネスやマーケティングの自動化の2つ。

本社は、インドのシリコンバレーと言われるバンガロールにあり、拠点はロンドン、ドバイ、メキシコシティ、シンガポール、マニラなど22カ国にある。従業員は850人。
IDG Venture Capital、Temasek、Eight Roads and Norwest Venturesなどから1億ドル(約108億5894万円)以上の資金を調達した。

ManthanのSaaS

Manthanは2004年に「顧客が望むものをつくろう」と、クラウドビジネスに参入。そして、SaaS(Software as a Service)に商機を見出した。
ビジネス・インフラを構築するための時間とコストの節約や、事業の拡大に合わせたインフラの拡張ができる。Manthanの利用は月額100ドル(約10860円)から

リサーチ会社Gartner(ガートナー)は「2018年版 小売業ハイプサイクル」でAIをキーワードに選び、Manthanはそのハイプサイクルの5つのカテゴリーで取り上げられた。これはとても名誉なことであり、それを可能にしたのはManthanのイノベーション力だ。また、「the Forrester Customer Analytics Wave Q2 2018」でも、顧客分析ソリューションを提供するトップ4企業に選出されている。

技術の核心

Manthanのビジネスの3本柱は、AI、クラウド、分析。膨大なデータを保有する企業は、その中から「使えるデータ」を抽出することに苦労している。Mayaは、その作業を楽々とこなしてくれる。
データを短時間で分析し、分かりやすい分析レポートを出すことができるのだ経営者はいつ、どこにいても判断を下すことができるようになる。分析レポートが仕上がるまでに数日待たされることもないため、ビジネスチャンスを逃がさずに済む。さらに、様々な角度からのデータ収集や、顧客行動の管理もできる。

クラウドコンピューティングは今や、フレキシブルな企業経営や事業拡大、コストダウンに欠かせないサービスだ。Manthanの顧客は、必要なときに必要なサービスの料金を支払うだけで、メリットを享受できる。
Mayaが意思決定の自律化を可能にしているのは、独自のML(機械学習)技術のたまものだ。AIアルゴリズムの構築には、統計分析、ビジネスコンテキストアウェアネス(コンピュータがユーザーのニーズを認識し、必要な情報を提供する技術)、視覚化機能が使われている。
さらに、会話型NLP(自然言語処理、Natural Language Processing)とAPI(Application Programming Interface)が搭載されているので、ビジネス上の重要な質問にも答えることができる
ビッグデータの管理も得意分野だ。企業の顧客管理システムとMayaをつなげれば、AIが需要予測や販売予測、売上予測などを自動で立ててくれる

Mayaは何ができるのか

経営者や管理職は、Mayaと簡単な会話を交わすだけでビジネスの決断に必要なデータや情報、ヒントを得ることができる。はや、ITチームや分析チームに依存しなくて済むようになるのだ
ただ「今何をすべきか」と、尋ねるだけ。このサービスを24時間365日、どこにいても受けることができる。

例えば、CEOのジョンが午前6時に起床してすぐに、Mayaに質問をする。

(HPより抜粋)

すると「売上高は先週より15%増。売上総利益は23%…」と即答してくれる。

(HPより抜粋)

最新の分析機能を持つ100万以上のデータポイントを使い、どんな質問にも適切な回答をくれる。質問するのは、会議の準備中でも、競合対策を練っている時でも、販売パターンの分析中でもかまわない。

どんな業種やタイプのデータでも分析するので、例えば「アリゾナ州で売上高の大きい3店舗を教えてほしい」と質問しても回答をくれる。

(HPより抜粋)

自社のKPIを評価し、結果を予測することもできる
例えばKPIに基づく結果予測を質問した場合、「競合の製品価格が5%下がると、売上高に2%の影響が出るだろう」という答えが返ってくることもある。

(HPより抜粋)

Mayaは企業やマーケットのデータを分析して、必要な情報を提供する。この機能は、NLPや音声認識、インテント分析、ML、深層学習によって支えられている。

Mayaを導入するメリットは
・ユーザーフレンドリーな操作性
・リアルタイムなサービスの提供
・どのビジネスニーズにも適応可能
・事業規模に合わせたサービス内容
・セキュリティの確保
・実装期間は4~6週間
・最小のコストで最高のROI(資本利益率)を期待できる
・ポテンシャルの高さ

(HPより抜粋)

Mayaの6つのメリットについて、それぞれ見ていこう。

①使いやすい:誰でも使えるNLPインターフェース
②リアルタイムでも臨機応変な対応:状況に応じて臨機応変に対応することが可能で、マーケティングの質が向上する
③カスタマイズ可能なAI:ニーズに合わせたシステムのカスタマイズができる
④ビジネス仕様:堅牢、高性能、安全なクラウド型プラットフォームに構築されている
⑤短期間での実装が可能:4~6週間で導入でき、負荷を抑える事ができる
⑥高いROI(資本利益率):最小限の設備投資とコストで、将来性の高いテクノロジーを確保できる

AIがマーケティングを強化する

マーケティングにも活用できるMayaは、高いROIを実現するだろう。データを「毎分」分析することで、企業と顧客とのつながりを創出する。さらに、リアルとネットを融合したオムニチャネルを強化することもできる。

(HPより抜粋)

Mayaを活用したマーケティングの特長:
① 顧客データプラットフォーム:自社データと第三者データを集計・効果的に管理することで顧客理解がより深まる。
② 独自のAIアルゴリズム:顧客像をあぶりだして構築し、マーケティング機会を増やす。
③オムニチャネル・パーソナライゼーション:企業が持つすべての販売チャネルでターゲティングできる。
④ データとテクノロジーのエコシステム:デジタルターゲティングによるデータの拡充や広告配信の最適化。

Manthanのプラットフォームは、あらゆる角度からデータを収集し、ビジネスインテリジェンスで管理するので、企業は顧客への理解がより深まる。

顧客データをAIに認識させることで、「顧客像」を構築することができる。そして、顧客の好みや購買パターンを分析して、将来のニーズを予測する。こうした機能は、企業のマーケティング力を強化するだろう。顧客の望む商品やサービスをリコメンドできるので、売上の増大にも貢献するはずだ。

この顧客マーケティング・プラットフォームは、ITWebを使った「デジタルキャンペーン」の企画・実施にも役立つだろう。例えばAIが、衣料のEコマース企業に「ある顧客が黒いドレスを探している」と伝えたとしよう。するとその企業は、数種類の黒いドレスの情報だけでなく、顧客とのコミュニケーションを充実させる情報も一緒に送信することができる。
顧客のニーズはFacebookやInstagram、企業に届くメールに隠れている。AIを使えば、Eコマース企業は隠れたニーズを掴むことができる。
このAIマーケティングは、現行企業が行っているマーケティングより、売上増をもたらしやすくなるだろう。
そして、AIマーケティングに取り組む企業は、データと技術のエコシステムを構築できるだろう。それにより、シームレスなデジタル・ターゲティングが可能になる。

AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)との連携

ManthanはAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)と連携してSaaSを提供している。AWSを使う理由は、顧客の利便性を最大化できるためだ。大きな投資をしなくても、顧客は商品やサービスを市場に投入できる。
ManthanとAWSの「結婚」は、現代のテック市場において見逃せないトピックスと言えるだろう。

どんな業種、どんな「わがまま」注文にも

Manthanのサービスは、食料品店、コンビニエンスストア、アパレル、レストラン、Eコマースなど、小売業であればどの業態や事業特性にも対応できる。

ファッション業界だけみても、すでに170社が導入している。そこにはMarks & Spencer、Forever 21、Zara、PRADAといった大手企業も名を連ねる。
食品業界ではNorthgate Market、FairPrice and Robinsonsが、外食ではKFC、Starbucks、 Pizza Hut、Domino’s Pizzaが含まれる。

レストラン業界での事例を紹介する。
レストランのオーナーはシステムを使って、従業員情報や顧客データ、仕入れ先の情報、SNSでの口コミを一括管理できる。それによって、効率的な店舗運営や来店者数予測、売上予測が立てられるようになる。
さらに、配達時間や調理時間、待ち時間や席の回転数も予測できる。顧客がどのメニューを注文するかも分かるようになるだろう。
マーケティングが自動化されることで、オーナーやシェフやスタッフは接客や料理に注力できる。

まとめ

ManthanはこれまでAIをフル活用して、小売業のビジネスを効率化してきた。Mayaに質問するだけで、ビジネスのヒントが得られる。さらに、ターゲットを絞ったマーケティング実施24時間365日の顧客対応も可能にしてくれる。そして、どの規模にもマッチさせることができる。
Manthanはいわば、これまでの小売ビジネスの常識を変革する存在である。

<参考> ※為替レート: Google Finance 2019年7月末時点