BIビジネスとAI技術、Insight Lab社に聞くイスラエル企業とのビジネスで重要な価値観

BI分野でAI技術を活用したサービスを展開するInsight Lab 社、イスラエル常駐の中島直美さんにインタビューを行ない、同社のサービスやイスラエル企業とのパートナーシップの狙いに加え、イスラエル企業と日本企業が協働する上で重要なことについて話を伺った。

Insight Lab社

BIビジネスを中心に事業展開してきた日本企業Insight Lab社が、2019年2月にイスラエル発のスタートアップで次世代BI製品としてユニークな技術を持つSisense社とパートナーシップを締結した。

ビジネスアナリティクス、データサイエンス市場は今後大きく拡大する見通しであり、競合も非常に多いのが現実としてある中、同じBI分野でAI技術を用いた2社のパートナーシップ締結がイスラエル企業と日本企業の間で実現した。

そもそも日本企業であるInsight Lab社がなぜ、イスラエルのスタートアップとパートナーシップ締結に踏み込んだのか?

Insight Lab イスラエル社 中島直美さん

Insight Lab社について教えてください

【イスラエル社について】
2019年3月に設立し、現在のイスラエル常駐メンバーは私1人です。
日本とは異なるビジネス環境や価値観をイスラエルから取り入れることで、日本にある本社への起爆剤の役割を担っています。新しい技術の宝庫であるイスラエルに、日系企業としていち早く基盤を築き、今後のビジネス展開への優位性を獲得するのが目的です。

Insight Lab イスラエル社での様子

【Insight Lab社が展開するサービス】

BIビジネスを中心に事業を展開しています。
世の中のビッグデータへの関心の高まりとともに、それに対するニーズが高度化してきているのが現状です。BIビジネスは、ビッグデータエンジニアリングとも言えるものであり、従来扱うことができなかった大量のデータを扱うため、新しいプラットフォームを開発し、それにシフトするとともに、アプリケーション最適化の技術が提供するサービスの中心となっています。

すでに100社を超える多方面のクライアントを持ち、これまで蓄積した情報を使いながら、企業の課題を可視化し、データ分析に活かすコンサルティング手法も確立し、近年は大企業からの受託が多いですね。また、他社からのリプレイス率が高く、これまで他社での失敗プロジェクトを成功プロジェクトに転換してきた実績も多数あります。弊社独自のビジュアライゼーション手法も確立しており、未経験者を短期間でスペシャリストに育成できる豊富な資産があります。

代表的なサービスの事例としては、アパレル企業向け感性分析AIや自動車メーカー向けトレーサビリティソリューションなどが挙げられます。

【AI技術について】

言葉で説明できないのにも関わらず、経営判断をしなければならない業種が存在します。
その中でも特に感性が重要視されるアパレル業界においては、成果の評価や戦略に直感的な判断を余儀なくされるケースが多いのが、課題として存在します。
そのようなアパレル業界における課題を解決する手段の1つとして、感性分析AIの使用が挙げられます。

我々の感性分析AIは商品画像と印象的なタグを学習させることで、情緒成分を数値化することを可能にしています。これによって、商品の一点一点に対して成分表示ができることを可能にし、それを顧客の購買履歴と結びつけることで、高ロイヤルティ商品化を実現、売れ残らない商品化を可能にしています。
弊社のAI技術の特徴は、単にAIが予測するという種類のものではなく、AIの結果データと購買履歴などのデータを組み合わせ、企業戦略に直接活用できることです。

Insight Lab 代表取締役会長 遠山氏 (左)と取締役社長 佐藤氏 (右)

Sisense社とのパートナーシップ締結について

なぜイスラエル企業とのパートナーシップ締結に踏み切ったのか、教えてください。

イスラエルには高い技術力を持ったスタートアップ企業が非常に多く、弊社はそのようなスタートアップ企業の発掘とアライアンスを組むことで相互の技術交流を深め、日本国内に技術移転可能な製品をいち早く紹介していきたいと考えています。

その第一弾がSisenseであり、インドアロケーションソリューションなど、次に控える製品もあります。

単純に海外展開を考えた時、事実としてイスラエルほど割に合わない国はないのではないでしょうか?
その理由として、物理的な距離や高い人件費、加えて文化的背景などを考えると北米、アジア圏より障害となることが圧倒的に多いことが挙げられます。その一方で、ここ10年くらいの間に中国、韓国からイスラエルに向けての企業進出が目立っており、その多くはイスラエルで開発された革新的な製品を獲得する、すなわちイノベーション目的です。日本企業のイスラエル進出はどうなのかと考えてみると、残念ながらアントレプレーナーシップの点でかなり立ち遅れているというのが実態で、イスラエルへの進出もそれほど多くありません。実際、欧米に始まったイスラエルへの企業進出の後に、全世界がイスラエルに注目し、大企業を中心にイスラエルへの進出や投資が進み、その背景にあるイスラエルの技術の高さを求めて世界の企業が進出を考えているのは間違いないことでしょう。

弊社のミッションは、企業が運用で使うための実装技術を確立することであると考えており、その中で我々はSisense社をAIを含めたビジネスソリューションのプラットフォームとして位置付けています。
現在、Sisense社の日本法人も開設されているので、日本市場に紹介するためのプロモーションを共同で行いつつ、Sisense社をクラウドサービスとして利用可能とするSisense Cloud managed by insight-labも今春より開始しています。

日本企業がイスラエル企業と協働するにあたって大切にしないといけない価値観や概念は何ですか?

【イスラエルの企業と関わる上で知っておくべきこと・価値観の違いについて】

我慢しないことだと思います。
それに加えて、事業目的が何なのか、具体的にはっきり言えるようになることであったり、正直になることや日本特有の建前と本音を使い分けず、常に本音で勝負することが重要だと思います。プロジェクト立て、運営していく過程においてでもミーティングなどの話し合いにおいても言えることなのですが、最終的に自分がどこにたどり着きたいと思っているのか、相手の都合に関係なく、具体的に決めておくことが特に重要では無いかと私は考えており、イスラエルで過ごしてきた経験から言うと、日本企業は特に上記の点において遅れていると感じています。

また、ミーティングをしている現場で、反対意見を言われた時にそれを個人的に捉えない、感情的にならないこと。ビジネス上の「信頼関係」は「感情」で作られるものでないということを再認識する必要があるかと感じています。これは、イスラエル企業との関わりにおいてだけで無く、同じ文化を共有しない海外の企業のやりとり全体において重要なことと言えると思います。

契約は常にお互いに平等であるということ。
日本だと、発注側と下請け側の間で力の差が大きいと伺うことが多いのですが、イスラエルではそのようなことはあまりないと感じております。それは雇用者と被雇用者の関係も同じで、「お金を渡す方が偉い」という感覚がイスラエルでは全くありません。

 

【日本の中小企業がイスラエルに進出する上で重要なこと】

リスクについて知ったうえで、それらにどう対処するかをしっかり決めておくことだと思います。
そして、リスクとその予防策とのバランス感覚をしっかり持つことが重要だと考えています。
イスラエルはリスクが高い国です。いつ戦争が起こるかもわかりません。
一方で、日本にはないアドバンテージがあることもまた事実です。
日本の企業は、間違いを起こした時の「予防」がとてもしっかりしていると感じますが、一方で予防に努めるあまり何も行動を起こせないような状況が生まれたり、万が一のことが起きた場合のことが全く想定されていなかったりすることが多々あると思います。
何事も完全や理想を求めず、現実的に失敗することや危険やリスクが生じることも念頭に入れ、そうなった際にどうするか、柔軟な対応を身に着けることが重要だと思います。

AIとBig Dataの組み合わせがつくる、BI・BA市場において今後の展望や挑戦について教えてください。

AIの作り手と利用する企業との間には大きな乖離があると考えています

それはAIであるがゆえの「説明性」にあると考えいて、AIのデータは企業が利用しやすい形になっていないのがその一因であると我々は分析しています。AIは単独で予測や確率を計算するものではなく、企業内で蓄積されたデータと有機的に結合されて始めて価値のあるデータとしてその存在を露わにします。

そのためには、BI・BAを活用した統合型のデータ利活用基盤を整えることが必要不可欠であると考えています。企業内データを統合し、AIに活用できるデータはAIに橋渡しし、その結果データも取り込んだ上で様々なデータの分析を可能することが重要なのは言うまでもありませんが、それらの分析結果を経営に活かしていくという循環を作り上げていきたいと考えています。