SNSや動画をAIで分析し、最適なジャーニーを作成するYotpo

街中にもスマホのなかにも、広告が溢れている。消費者やネット・ユーザーは「広告疲れ」を引き起こしている。
企業やテレビ局によるステルス・マーケティングや「やらせ」が社会問題になり、企業の宣伝に対する人々の信頼は低下している。

その一方で、消費者が商品を購入するときに頼りにするのがSNSである。ある調査によると、商品購入の最終的な意思決定に、SNSのレビューを参考にする人は7割に達するという。
この状況を受け、マーケティング業界ではUGC(ユーザー生成コンテンツ、User Generated Contents)の需要が高まっている

インターネットのユーザーがサイトに投稿するコンテンツはUGCと呼ばれ、高い価値を持つようになった。
UGCには、SNSに投稿された文章や写真だけでなく、ネット通販サイトのカスタマーレビューや、質問・回答サイトのQ&Aも含まれる。
UGCには、消費者やネット・ユーザーの「生の声」や「実際に感性」が反映されているので、伝統的なマーケティング戦略では達成できなかったROI率(投資利益率、return on investment)の向上や、売上げ増が期待できる。

スタートアップ「Yotpo」は、UGCの収集を容易にするツールを企業に提供している。Yotpoのサービスを使えば、小売企業はさまざまなUGCをAIで分析できるようになり、顧客に最適な買い物体験を提供することができるだろう。

ある企業がYotpoのサービスを使ったところ、購入率が24%も向上したとの報告もある。

Yotpoの概要

Yotpoは2011年に、大学時代の友人同士であるOmri Cohen氏とTomer Tagrin氏がイスラエルで設立した。ネット通販でカメラを購入しようとしたとき、偽のレビューがあまりにも多いことに苛立ったことが、Yotpoのサービスにつながっているという。
Yotpoは2019年現在、テルアビブ、NY、ボストン、そしてロンドンにオフィスを構え、従業員は300名を超える。

Facebook、Google、Instagramのオフィシャルパートナーになっており、幅広いチャネルからUGCを収集することができる。顧客リストには、GoPro、Pura Vida、Adore Meなどの有名企業が名を連ねる。日本では2018年からサービスの提供を開始している。

Yotpoのサービス

さらに詳しく、Yotpoのサービスをみていこう。

カスタマーレビューを最大限活用

Yotpoの最大の強みは、カスタマーレビューの収集と活用である。YotpoはAIを使って顧客に、レビューの投稿を依頼するメールを自動送信する。顧客のわずらわしさを軽減するため、メール内のフォームに入力するだけでレビューが完了するように設計している。

またユーザー企業が要望すれば、サイト内にレビュー用のポップアップ画面を表示したり、レビューと引き換えにクーポンを配信することができる。

カスタマーEメール(HPから抜粋)

企業は、Yotpoで集めたレビューを自社のホームページに掲載したり、カテゴリーページや商品ページ、支払い画面に表示させたりすることもできる。

さらに、そのレビューの掲載によってコンバージョン率やROI率がどれだけ向上したかも分かる。

カスタマーレビュー(HPより抜粋)

Googleの検索画面にレビューを表示させたり、AIにより自動でFacebookの広告を作成したりすることも可能だ。これにより自社のブランド認知度を上げてトラフィックを増大させることが期待できる。

Facebook、Instagram、Twitter、PinterestなどのSNSと連動させることや、Shopify、Magneto、Salesforceといったマーケティング・ツールとつなげて活用することも可能だ。

顧客のロイヤリティを向上させる

Yotpoでは、リワード機能や友達紹介機能を使うことで、顧客のロイヤリティを高めることができる。

新規顧客を獲得するためのツールも充実している。例えば、サイト上で展開するキャンペーンを企業のニーズに合わせて自由にカスタマイズすることができたり、LTV(顧客生涯価値、Life Time Value)の額ごとに顧客層を定めたりすることができる。つまりマーケティングにおけるターゲティングが容易になるのだ。

リファーラルポイント(HPより抜粋)

またYotpoには、マルチチャネルに対応した友達紹介機能がある。これを導入した企業は、新規顧客を効率よく獲得できるようになる。

さらに、AIを活用して最適なタイミングで、メーリングリストへの登録を了承するウィンドウを表示させることも可能だ。この機能を使ったある企業は、メールからのクリックがサイト訪問者全体の20%を占めるようになったという。

ビジュアル・マーケティングを展開できる

Yotpoのユーザー企業は、ネット・ユーザーから集めた画像や動画を自社サイトに取り入れることができるので、顧客とのつながりを強化することができる

ビジュアルマーケティング(HPより抜粋)

写真や動画などのUGCを集める方法も充実していて、ワンクリックでInstagramのユーザーに写真提供をリクエストできる。レビューに写真を投稿することも、直接サイトにアップロードすることも自由自在である。

効果測定(HPより抜粋)

もちろん、これらのUGCがもたらす効果を測定することもできる。

顧客の本音に迫る

Yotpoのサービスの優れている点は、単にレビューを集めるだけでなく、レビューに用いられている言語をAIで分析し、商品に対する顧客の本音を探ることができることである。

AIスコア(HPより抜粋)

例えば上記の画像は、人間の言語を理解するAIが、カスタマーレビューから「クオリティ(製品品質)」「サイズ」「サービス(の質)」の3点に関連する表記を抜き出し、自動的にスコアを作成したものだ。

消費者の大部分がクオリティには満足しているが、サイズ感が合わないことに不満を持っていることがわかる。この工程はすべて自動化されているため、大量のレビューを処理する時も時間をかけずに分析できる。

分析の観点は自由にカスタマイズすることができ「素材」や「フィット感」といったテーマを設定することも可能だ。さらにこれらのスコアを、競合商品の平均レビューと比べることもできる。

Yotpoのビジネスモデル

Yotpoは月額または年額の料金で利用することができる。日本版は月額83,880円(税別)からとなっている。無料版と有料版のサービス内容は次のとおり。

<無料版のサービス内容>
レビュー依頼メール、Webサイト掲載、SNS拡散、ダッシュボード、スタッフコメント

<有料版のサービス内容>
無料版のサービスに加えて、写真収集(ユーザー投稿やInstagramなど)、Google Seller Rating表示、リッチスニペット対応、Q&A、クーポンコード配布など

2019年現在、Yotpoを利用している企業は、GoPro、Steve Madden、brooklinen、Pura Vida、UNTUCKit、Adore Meなど。
日本企業では総合通販サイトの「プレモア(Premoa)」が、レビュー数を4倍以上にした、との報告がある。

Yotpoは2011年の設立以来、1億ドル(約108億6300万円)を超える資金を調達してきた。2017年のシリーズDファンディングで5,100万ドル(約55億4053万円)を調達。主な投資元はAccess Industries (ClalTech)、 Bessemer Venture Partners、Marker、Vintage Partners、Blumberg Capital、Vertex Venturesなど。

ケーススタディ

最後に、実際にYotpoを導入した企業のケーススタディをみていこう。

1:Greats

Greatsは2013年にブルックリンで誕生した、高級スニーカー・ブランドだ。GreatsはYotpoを導入してUGCを収集し、キュレーションやディスプレイに活用。例えば、カスタマーレビューやSNSの写真を直接自社サイトに表示し、顧客とのつながりを強めた。

その結果、サイトを訪れたユーザーの40%がUGCに反応し、そのうちの60%が商品を購入した。

さらにYotpoのサービスは、Greatsのカスタマーサービスや商品開発にまで影響を与えることになった。例えば、Greatsはこれまで「いかにしてネット・ユーザーにサイズ感を伝えるか」という課題を抱えていた。そこでサイズとフィット感に関するアンケートを行い、レビューを収集した。このデータを生かし、サイズ感の問題を大幅に改善することができた。

Yotpoの導入後、UGCと関わった顧客とそうでない顧客では、コンバージョン率に大きな差がみられたという。レビューを読んだり写真をみたりすることで、サイト滞在時間が長くなったのである。統計学的にいえば、サイト滞在時間が長い人ほど購入に至る確率が高くなる

つまりGreats は、Yotpoのおかげで、商品に興味は持っていたけれど購入に至らなかった顧客を取り込むことに成功したのだ。

2:Brooklinen

Brooklinenはアメリカのインテリア・ブランドで、シーツやカバー、枕、タオルなどを販売している。2014年の設立以来、リーズナブルな価格でクオリティの高いリネンを提供することを目標にし、UGCを積極的に活用したマーケティングを展開している。

Brooklinenが使ったYotpoのサービスは、クーポン配信システムだ。レビューやフィードバックを残すことを容易にし、これまでに2万5千件以上の5つ星レビューを獲得した。

また、顧客と長期的かつ良好な関係を築くために、カスタマーレビューに対してBrooklinen側から返信したり、サイトにQ&Aスペースを取り入れたりした。こうした双方向のコミュニケーションによって、リピーター客が増え、カスタマーロイヤリティを向上させることに成功した

まとめ

今日のマーケティングは「顧客の声」を抜きには語れない。企業が配信する広告よりも、商品を購入した顧客のレビューや写真の方が、購入の意思決定に大きな影響を与えるからだ。そのため、UGCをどう自社のPRに取り入れるかが、大きな課題となっている。

YotpoはあらゆるチャネルからのUGCを収集するプラットフォームだ。顧客にさまざまなインセンティブを与えることで、レビューを投稿しやすい環境をつくる。

さらにYotpoがInstagramやGoogle、Facebookなどとパートナーシップを結んでいることで、Yotpoのユーザー企業は、ネット・ユーザーが投稿した写真などを自社サイトに掲載することができる。加えてYotpoは、AIを使ってレビューの分析や統計作成まで行ってくれる。まさに、未来のマーケティング・ツールといえるだろう。

<参考> ※為替レート: Google Finance 2019年7月末時点