企業と顧客との「対話」を変え「信頼関係」を強化するAIチャットボット~Haptik社

ストームトルーパーをご存知だろうか。映画「スターウォーズ」の銀河帝国軍の機動歩兵で、白い甲冑(かっちゅう)を身にまとった兵士、といえばピンとくるだろう。

Haptikのサイトを開くと、AI(人工知能)を搭載したチャットボットが、そのストームトルーパーのように挨拶をする。

インドの企業であるHaptikは「世界最大の会話型AIプラットフォーム」を自負しているが、それは決して言い過ぎなどではなく、同社はAIタイムジャーナルの2018年AI企業ベスト25に選出されている。

Haptikは今、数千社の「ビジネス会話」をサポートしている。

AIは今や、企業のカスタマーサポートとマーケティングになくてはならない存在だ。Amazonで買い物をするときも、MakyMyTripで旅行の予約を入れるときも、ユーザーの話し相手はAIであり、人間のオペレーターではない。

ターゲットマーケティングでも同様で、SNSやスマホにはユーザーが興味を持ちそうな関連商品が出てくるが、これも今やAIが制御している。

数字でみるチャットボット市場

チャットボットとは、チャットをするロボットのことである。チャットとはそもそも、人と人とがネット上で文章による会話をするシステムだが、今は会話相手がAIロボットなのである。

Business Insiderが伝えたニュースによると、Oracleが世界の800社に取ったアンケートによると、80%の企業が2020年までにチャットボットを利用するだろうと伝えている。

なぜ企業はチャットボットに投資をするのか。それはチャットボットを使えば、大幅なコストカットが見込めるからである。

消費者は、チャットボットと会話しない日がない生活を送るようになるはずだ。ニュース、交通情報、食事の注文、公共料金の支払いまで、すべてチャットボットが仲介するようになる。

そのチャットボット業界をリードしているのがHaptikである。

ビジネスチャンスを逃すな

Haptikは元々、BtoC企業だったが、事業拡大のなかで企業向けソリューションを手掛けるようになった。

企業向けソリューションの最初のサービスは「バーチャル・アシスタント」で、これはユーザーの操作性を向上させるため、自動でアドバイスするシステムである。このバーチャル・アシスタントは多くの企業に採用され、請求書の支払い、タクシーの予約、重要なイベントの通知といった用途に使われた。ユーザーは、24時間365日いつでもバーチャル・アシスタントを使えるだけでなく、わざわざアプリをダウンロードしなくて済む

Haptikのサービスは、そこからさらにグレードアップした。

現在のHaptikの企業向けチャットボットは、カスタマーサポート、マーケティング、営業をカバーする。

チャットボットはバリエーションが増え、「リードボット」「コンシェルジュボット」「サポートボット」「フィードバックボット」が存在する。下記のプロセス毎でチャットボットを利用し、見込み客を獲得から定着してくプロセスを確立しているのである。

1.リードボットが顧客を獲得(Acquire)

2.コンシェルジュボットが顧客を惹きつけ(Engage)

3.サポートボットが顧客にサービスを提供(Service)

4.フィードバックボットが顧客を深く理解する(Understand)

HaptikのAIチャットボットは「顧客の消費」に徹底的に寄り添う。

(企業ページより抜粋)

Haptikを利用する業界は、Eコマース、小売、旅行、メディア、エンターテイメント、金融に及ぶ。同社の顧客リストには、コカ・コーラ、HDFC Life、サムスン、アマゾン・ペイ、Future Group、OYO、NTPC、Viacomなどが名を連ねる。

Haptikの卓越した技術

Haptikの高性能チャットボットの技術について紹介する。同社はML(機械学習)とNLU(自然言語理解)の2つの技術を駆使して独自のAI技術を確立し、それをチャットボットに搭載している。

まずMLであるが、これはHaptikの会話システム・プラットフォームの基盤になっている。MLによってチャットボットは、顧客の消費行動を把握できるようになる。特別なプログラムを介することなく、チャットボット自身が自らの経験から学んで成長していく。

Haptikのチャットボットは、顧客が言っていることを理解しているのである。そのため、高度な会話を人と交わすことができる上に、顧客から必要な情報を引き出したり、その情報を瞬時に分析して最良の答えを顧客に提示することもできる。

Haptikは、顧客の細かい要求に対応できるように複数のMLアルゴリズムを開発した。

続いてNLUであるが、これは基本的にチャットボットの言語関連のサポートをしている。

NLUの「仕事」を箇条書きにしてみる。

・会話(チャット)のなかの言語を検出

・ドメインを分類

・話者(人)の意図をカテゴリー分類

・会話のなかの単語をカテゴリー分類

・多言語を理解

・チャットボットの「個性」や「発言」の最適化

例えば、顧客がチャットで「注文した商品の配送状況を知りたい」と質問する。チャットボットはNLU技術によって「言語:英語」「ドメイン:購入」「顧客の意図:配送状況の確認」と理解する。

そしてチャットボットはチャットで、注文番号を顧客に尋ねる。顧客が注文番号を答えると、チャットボットはその注文番号をデータベースに照会し、顧客に注文した商品が「いつ発送され」「いつ自宅に届くか」を調べ、チャットで回答する。

これらのサービスを、人を介することなく顧客に提供できるのである。これが、NLUとMLを駆使した高性能AI技術である。

Haptikの母国であるインドには、多くの言語が存在する。Haptikは、インドの消費者が、自身の地域特有の言語で会話することを好む傾向をつかんだ。この情報が、多言語MLモデルを構築するときに役立った。

AIの感情

Haptikの共同創業者でCEOのAakrit Vaish氏によると、チャットボットの個性をつくり、ユーザーがその個性をどう評価するかを知ることは、大きな課題になっているという。会話型AIはまだ、その領域に踏み込んでいない。Haptikでは今、チャットボットに感情を持たせるトレーニングを行っているところだ。

例えば、人間のコンシェルジュであれば、自社ブランドにふさわしい会話を顧客と交わすことができる。それは企業が、顧客対応する社員を教育しているからだ。それと同じことをチャットボットに対しても行わなければならない。それが、チャットボットの発言に「適切な感情」を持たせる意義である。

「AIの感情」を構築するには、顧客がAIの個性にどのように反応するか、というデータが必要になる。MLシステムが自己学習して、NLUの感情をつくっていくことになるだろう。

「企業のプラットフォームとの適合」「人の介入」、「分析」

企業はすでに、独自にプラットフォームを構築しているだろう。Haptikの技術はそれらに適合させることができる。例えば、既存のCRM(顧客関係管理システム)や専用設計したCRMにHaptikの技術を導入することもできる。

WhatsAppやフェイスブック・メッセンジャー、ツイッター、アンドロイド、iOSなどでHaptikのチャットボットを使えるようにすることも可能だ。

Salesforce, Zendesk, HubspotのCRMシステムと統合することもできる。

企業のなかには、顧客対応の全てをチャットボットに任せるのではなく、社員による対応を残しておきたい部分もあるだろう。その場合もHaptikのプラットフォームを使えば、社員と顧客との会話をモニターすることで、社員の顧客対応をサポートすることができる。

また「チャットボット対応」をベースにしつつ、必要に応じて「チャットボット対応」から「社員対応」に切り替えることもできる。例えば、顧客が企業側のあるミスにクレームが入ったとする。チャットボットはクレーム担当の社員にすぐに繋ぐのである。

また、顧客対応する社員と顧客との会話をモニタリングすることで、顧客担当社員の生産性と効率性を計測することもできる。その計測データはMLモデルの性能向上に役立てることも可能だ。

チャットボットが分析した結果を現場にフィードバックすれば、チャットの測定基準を改善したり、会話内容を評価したりすることもできる。

会話モニタリングではさらに、チャットボットの実力を測定することもできる。チャットが顧客を惹きつけているか、それとも顧客に飽きられているかがわかる。顧客を深く理解するには欠かせないツールとなるだろう。

次は音声会話のAIを開発か?

Haptikの次なるターゲットは、音声で会話できるAIの開発である。同社は「音声会話AIが完成すれば、インドだけで1億人のユーザーを獲得できる」と見込んでいる。

なぜそれほどの自信があるのだろうか。それは人々が、パソコンのキーボードから解放されたいと願い、WhatsAppのような音声メモ機能の充実を待ち望んでいるからだ。

そして先述したとおり、インド人は地域毎の言語でチャットすることを好む。Haptikは現在、地域ごとの言語に対応する音声チャットボットの開発に注力していて、2019年末には「音声技術のリーディングカンパニー」になるという野望を持っている。

チャットボット業界ほど、ダイナミックかつエキサイティングな分野もないだろう。AIはこれからもチャットボットを進化させるはずだ。

常に企業の重大課題になっている「顧客との信頼関係の構築」「精度が高いマーケティング」に、AIチャットボットがどれくらい貢献できるようになるのか注目していきたい。

<参考>