Facebookが認めた、顧客体験を変える「Wit.ai」とは

Facebookの開発者カンファレンス「F8 2019」では、2017年に買収したAIベンチャー「Wit.ai」の自然言語処理技術を活用して、企業向けにメッセンジャーが大幅にアップデートされることが発表された。一体、なぜ彼らの技術が求められたのだろうか?

「信頼関係の構築」に悩むマーケター

自然言語処理技術が求められるようになった背景には、世界中でビジネスモデルが変化していることが挙げられる。

これまでは、購入者が購入代金を一回だけ支払うことで取引が完結する「売り切り型ビジネス」が中心だったが、決済やデータ活用・そして顧客体験といった領域でイノベーションが生まれた結果、継続的な課金を前提とした「サブスクリプションビジネス」に注目が集まっている。

サブスクリプションビジネスで収益を拡大させるカギは、企業と顧客の信頼性にある。顧客は将来にわたって継続的な利益をもたらしてくれる存在へと変わったことで、企業は顧客の期待や信頼に応え続けることができなければ、サービスを解約されてしまう。このような事態を避けるために、信頼関係の構築はホットトピックになっているのだ。

解決のカギは「パーソナライズ」と「AI」

顧客と信頼関係を構築するために、パーソナライズされたコミュニケーションを行うことはとても大切だ。例えば、英語の学習に置き換えてみよう。英単語や英文法が疎かになっている生徒に対して、いきなり東大の入試問題を渡してもあまり意味がない。能力に応じて、参考書や問題集を勧めるほうが価値が高いことは間違いないだろう。

企業のマーケティング活動も同様だ。相手の興味関心やリテラシーに応じて、配信するコンテンツの内容を変化させるほうが優れた顧客体験を実現できる。eConsultancy社によると、74%のマーケティング担当者はパーソナライズされたメールマーケティングによって、顧客体験を改善することができると答えている。

しかし、顧客ひとりひとりに営業担当者やカスタマーサクセス担当者をつけることは、人件費の観点から非現実的である。そこで、目をつけられたのが「AIチャットボット」だった。

AIチャットボットを活用することによって、多くの人件費を割くことなく、また営業時間に限らず、パーソナライズされたコミュニケーションを実現することができる。結果として、顧客体験・信頼関係を構築できるようになる。

Facebookが認めたスタートアップ「Wit.ai」

そこで、Facebook社が熱い視線を送ったスタートアップが、自然言語処理技術に強みを持つ「Wit.ai」だ。

Wit.ai社は、2013年にシリコンバレーで創業。高度なAIチャットボットを開発する技術を持っているだけでなく、プログラマーでなくとも自社に最適化されたチャットボットを開発できるような、ユーザーインターフェース(UI)を提供していることが特徴である。この価値が認められ、AirbnbやDropboxを輩出したシリコンバレーの有名シードアクセラレーター「Y Combinator」に選ばれたほか、創業18ヶ月目である2015年にはFacebook社に買収された。

当時、公式プレスリリースでは以下のようなコメントがされている。

> Facebookには、私たちが次のステップへ進むために必要なリソースがある。彼らの使命である「人々を繋げること」を実現するために、私たちの技術は大いに役立つと思う。

「Wit.ai」を活用する手順とは

では、Wit.aiはどのように利用するのだろうか? AIチャットボット開発の具体的なプロセスについて解説する。

1.アカウントを作成する

FacebookもしくはGithubのアカウントでログインすることで、簡単にWit.aiのアカウントを作成できる。

2.アプリを作成する

続いて、新しいアプリ(App)を作成する。対応する言語を選択し、オープン・プライベートの2つから公開範囲を設定しよう。

3.エンティティを設定する

チャットボットを設定する上で、「エンティティ」という言葉を覚えておきたい。エンティティは「ユーザーの発言から検出したい情報」を表しており、AIがユーザーの言葉を理解するためのキーワードになる。

例えば、

  • メールの受信数は?
  • メールは届いてる?
  • メールは溜まってる?

といった質問は、全て「メールの受信件数」に関するものだ。Wit.aiがメールの受信件数を教えてくれるようにするためには、このような質問例をいくつか追加して、AIが意図(インテント)を推測しやすくすることが大切だ。

4.精度を改善する

次は、AIの返答の精度を高めていこう。「Test how your app understands a sentence」の項目に質問を記入し、正しい意図(インテント)を表示した場合、「Validate」をクリックする。

5.公開する

ここまで設定が完了すれば、Facebookメッセンジャー上に公開することができる。 詳しくはこちらを参照しよう。 https://developers.facebook.com/docs/messenger-platform/built-in-nlp

AIチャットボットの活用事例

簡単なAIチャットボットであれば簡単に開発できることが分かった。では、商業用にAIチャットボットを活用した事例として、どのようなものがあるのだろう?

米国サンフランシスコのExpensify社は、2008年にDavid Barrett氏らによって創業され、経費精算プラットフォームを開発・提供している。領収書のアップロードや財務部門向けレポートの作成・経費払い戻しの申請機能など、経費申請に関わる様々な機能が備わっている。

しかし、クラウドサービス上に表示されている情報が多すぎるため、ユーザーが利用方法に戸惑っていることに気づいた。そこで、意思決定を簡素化すべく、AIチャットボットを導入した。これにより、サービスの利用方法やキャンペーンについて効果的にコミュニケーションできるようになり、カスタマーサクセス業務を75%削減することに成功したほか、無料トライアルの利用者数を5倍に改善することができた。

このように、UI/UXが煩雑になっているがゆえに、顧客体験を棄損しているサービスは決して少なくないだろう。そんなサービスの「打ち手」として、AIチャットボットの活用は有力かもしれない。

まとめ

ビジネスモデルが売り切り型からサブスクリプション型へ変化し、顧客との信頼関係が求められるようになり、パーソナライズされたコミュニケーションによる顧客体験の重要性が高まった。

このような課題に対して、AIチャットボットに対する期待が高まっている。Facebook社の場合、創業18ヶ月目のWit.ai社を買収し、ユーザーの利用を促進している。また、AIチャットボットを活用した事例も増えておりExpensify社のように収益改善を実現した米企業もある。今後日本でも、AIチャットボットを活用したビジネスが増えていくのではないだろうか。

<参考>