顧客のエンゲージメントを高めるPerxの「顧客ロイヤリティプラットフォーム」とは?

AIはすでに、私たちの日常生活に浸透している。SiriやAlexaから時間や交通情報を教えてもらったり、音楽を流してもらったり、冗談を言い合ったりしている人は、すでにAIを使いこなしていると言える。Netflixを観る時、おすすめ番組リストに注目してほしい。視聴者の志向に合った内容になっているはずであり、これもAIの仕事である。

マーケティングの分野でもアプリ上やウェブ上のユーザーの行動を分析し、どの行動パターンが優良顧客か、どのような人がクーポンによく反応するかなど、様々な企業が分析を試みている。今回は、マーケティングの分野でブランドの顧客ロイヤリティを高める事に挑戦するスタートアップ企業、Perxを見ていく。

AIを利用して、プロモーションにおけるユーザーの反応や行動を分析

Perxは、主にメーカーなどユーザーとの接点を持つ企業に対してAIを活用した顧客エンゲージメントプラットフォームを提供している。Perxは2011年にシンガポールで設立されたスタートアップ企業で、新しい顧客ロイヤリティ管理システムのSaaSと、オムニチャネルマーケティングを組み合わせて、オンラインとオフラインの両方で、企業向けに顧客エンゲージメントをサポートしている。

Perxのプラットフォームの利用企業はリアルタイムで顧客の行動データをトラッキングして、AIと機械学習のアルゴリズムにより、マーケティングキャンペーンに活かせる洞察を提案してくれるのである。この洞察から、マーケターは意思決定を行ったりする事ができる。具体的にはユーザーの属性、ポイント・リワードやプロモーションに反応しやすいユーザー層を特定してくれるのだ。

エンゲージメントが低い顧客に苦戦する企業を助けるPerx

Perxの名が知られるようになったのは、2011年に発表した、ロイヤリティ・アプリだ。ロイヤリティ・アプリとは、ユーザーが企業へのエンゲージメントを高めることを目的としたアプリのことである。従来の小売店や飲食店などは、紙やプラスチック製のポイントカードを顧客に発行していたが、Perxはそれをモバイル・アプリにしてポイントやスタンプを消費者に与えるようにした。

Perxに転機をもたらしたのは、新CEOのAnna Gong氏だ。2014年に、大企業はロイヤリティが高い顧客を掴むソリューションを求めていることに気付き、ビジネスになると確信した。

当時、消費者に届く製品やサービスの情報は溢れかえり、それがどんな商品なのかが分かりづらい、というような状況が起きていた。そのため、ブランド企業や小売業は、製品を購入してもらう顧客のロイヤリティを失いかけていた。

この状況を解決するために、PerxはAIを活用したマーケティング・プラットフォームで、企業と消費者の関係性を再構築しようとしているのである。Perxを利用する企業は地元シンガポールにとどまらず、香港、マレーシア、タイ、フィリピンにまで拡大している。そしてPerxを利用する企業は、HSBC、DBS、Prudential、Oracle、UOB、Sephoraといったグローバルブランドが名を連ねる。

インドネシアとベトナムにも進出しており、また、2019年の今期は、ヨーロッパ、中東、アフリカ、インド、韓国、日本のいずれかに進出する計画だ。Perxの過去2年半の成長率は年200%に達し、今年は前年比5倍の成長を見込んでいる。では実際にPerxはどんなサービスを提供しているのか見ていく。

ゲーミフィケーションで美容業界にもたらした功績~Sephoraの成功事例

(Perx HPより抜粋: Sephoraのコラボ企画)

多くの女性に支持されているメイクアップブランド、Sephoraは、Perxの技術を使って顧客を増やし、売上を伸ばすことに成功した。その要因となったのは、PerxはSephoraのマーケティングキャンペーンに「ゲーミフィケーション」を活用し顧客獲得に成功したのである。ゲーミフィケーションとは、ゲームの要素をマーケティングに応用する手法で、クイズ形式、ポイント獲得ゲームなど様々なタイプがある。

(Perx HPより抜粋: クイズやスクラッチ形式で顧客エンゲージメントを高めるゲーミフィケーション)

(Perx HPより抜粋)

Perxを利用したSephoraのキャンペーン内容を見ていく。

①Sephoraのファンに対して、ゲーミフィケーションを利用したキャンペーンを告知。

②ショッピングモール内のさまざまな場所にSephora関連のQRコードを設置し、ユーザーがスキャンするたびにポイントを付与。ユーザーは獲得したポイントを利用したり、Sephoraのサービスを割引価格で購入することができる。また、店舗でポイントや割引を利用をすると、デジタル版アンケートが送られてくる。ユーザーはこのキャンペーンのアンケートに答え、フィードバックを送り返す事ができる。

③キャンペーンを通じて、ユーザーの行動はすべてデータ化され、分析される。これがSephoraの次のマーケティング戦略のための洞察を得られるのである。PerxのAIプラットフォームが顧客の行動パターンを分析することで、特定のユーザーが好みそうな特典やキャンペーンを提案できるのである。

この効果は絶大で、Sephoraのキャンペーンでは63%のユーザーがアンケートに回答しており、最終的にSephoraは6万人のユーザーのエンゲージメントを獲得する事ができたのである。

このようなPerxのキャンペーンは、タイの大手小売業などでも活用されている。

(Perx HPより抜粋)

このPerxの利用企業であるタイの大手小売は400店舗のショッピングモールを運営しており、1800万人の顧客がいる。Perxのサービスを利用する事で、従来なら数週間かかっていたマーケティングキャンペーンの作業を1週間に短縮することができた。80以上のキャンペーンを90日間で、1,800万人の顧客に対して実施しており、スピードの早さもPerxの強みとなっている。

Perxがマーケティングを支援した企業はSephoraやタイの小売だけではない。前述したDBS、AXA、HSBC、Prudentialといった名だたる金融機関などもPerxのAIマーケティングによってブランド価値を高めることに成功した。

アジアのある大手銀行に至っては、PerxのAIマーケティングで、1回のキャンペーンでクレジットカードでの海外における購買を2,400万ドルにまで引き上げることができた。

溜まったキャンペーンのデータを分析、更に精度を上げる

このように、Perxを活用すれば、マーケティングの管理業務が容易になり、意思決定にスピード感を持たせることができる。つまり、リアルタイムで顧客との信頼関係を構築できたり、販売データを活用できたりする。また、それらをすぐに可視化することも可能である。

これにより、顧客に寄り添ったきめ細かいキャンペーン戦略を打ち出すことも、マーケティングに必要な調査の実施も簡単なので、さらに顧客に信頼されるという好循環を生み出しているのである。

PerxのAIを支えているML(機械学習)のアルゴリズムは顧客を深く理解できるので、「その顧客」しか喜ばない特典を見つけ出すことができる。Perxのロイヤリティ・プログラムの価値を高めているのはAIとMLの技術であるといっても過言ではない。Perxの技術を使ったクライアント企業は、その企業がターゲットにする特定の顧客を喜ばせることができる。

ファッションに敏感な人が喜ぶ特典は、レストランの食事券ではなく、化粧品の割引券だ。PerxのAIは、顧客の好き嫌いを正確に捉える事ができる。さらに、システム内にキャンペーンのデータがたまると、ビッグデータを分析して顧客を理解し、顧客の次の行動を予測することもできる。

顧客が次に望むものを企業が把握できれば、顧客を喜ばせることは難しくない。その企業ブランドの印象は、顧客の心に深く刻まれることになる。

なぜ、Perxのサービスを活用した企業は収益を上げることができるのか。それは、次の4項目を実現することが可能だからだ。

1.マーケティングの自動化

2.深みのある顧客分析

3.企業の課題をワンストップで解決する包括的なソリューション

4.特定の客層をターゲットにしたオリジナリティあふれるキャンペーン

次なるステージ ~大企業ビジネスで築き上げた実績を中小企業へ

Perxはこれまで、大企業のマーケティング支援に注力してきた。これは、中小企業や小規模ブランド、フランチャイズチェーン向けサービスに注力する、他のアドテクやマーテックの企業のビジネスとは対照的と言えるだろう。

常に消費者の複雑な要求に応えなければならない大企業は、いつも困難に直面する。その難しい状況の中実績をあげたPerxの技術は、中小企業や小規模ブランドなどのビジネスに貢献することもできるだろう。

また、Perxはすでに、中小企業向けサービスの開発を行なっている。ある銀行や電気通信企業は、Perxのサービスを使ってパートナー企業や加盟店との連携・提携を強化している。

消費者も次第にAIなどの先端技術に順応できるようになるので、Perxが提供するAIサービスの恩恵を受けられる中小企業も増えるだろう。

消費者がAIに順応できるかどうかについてPerxのAnna Gong CEOは、「タイミングと技術がすべて」と述べている。

適正な技術を適切なタイミングで供給できれば、消費者のAI活用は爆発的に膨らむ。

Perxはすでに有力なAI技術を有しており、世の中にAIを使ったサービスを提供している。

<参考>